支援が必要な子どもたちと、音楽でつながるには― OTOMIC Lab.vol.2 第2回レポート ―

発達障害や知的障害のある仲間と音楽を囲む

11月18日、調布市グリーンホールで「OTOMIC Lab.vol.2」の第2回が開催されました。今回のテーマは「支援が必要な子どもたちと舞台芸術をつなぐ方法を探る」。ゲストは瑞宝太鼓所長の岩永洋平さんと、株式会社人と音色 代表取締役の武藤紗貴子さんです。当事者とともに芸術活動を実践しているお二人から、発達障害や知的障害のある人々が芸術鑑賞・体験を楽しむために必要な配慮や工夫を学び、新たな可能性を考えていきます。

発達障害は、主に精神障害の一部として扱われる「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」「ASD(自閉症スペクトラム症)」「LD(学習障害)」の3つに分類されます。複数の特性を併せもつ場合や、ADHD・ASDと知的障害が重なるケースもあります。

ADHDで多動性が強い人は長時間席について話を聞くことが難しかったり、ASDで自閉的傾向の強い人は、急なスケジュール変更でパニックに陥ってしまったりと、それぞれに代表的な特徴はあるものの、症状の現れかたは人によって大きく異なり、外見からはわかりにくいことから、周囲から理解を得にくいという特徴もあります。

とくに児童期は集団での活動が中心となるため、特性によるアンバランスさが目立ち、生活に支障が出ることも少なくありません。今回のラボでは、そうした子どもたちも安心して参加できる音楽のあり方について、会場全体で深掘りします。

「OTOMIC Lab.vol.2」は「Lab(=ラボ)」の名のとおり、ゲストや参加者とともに「学び」と「実践」を重ねながら、さまざまな背景を持つ人が主体的に関われる“新しいコンサート”のあり方やヒントを探る“実験の場”です。当日の模様をレポート形式で一部ご紹介します。

今回も、情報保障として手話通訳およびUDトークを導入しています。また、会場には車椅子を用意し、参加者が車椅子に乗ってワークショップを体験できるようにしました

(文・遠藤ジョバンニ)

詰め込まれた安心と工夫 おとみっくのワークショップから

まずは、このラボの主催である音楽ワークショップ・アーティスト「おとみっく」のワークショップからスタート。特別支援学校などで実施している約30分のプログラムを、以下の順で実演しました。

おとみっく 坂本さん(画面左)と、池田さん(右)によるワークショップ実演中の様子

①じゅんびたいそう
②とりのおんがく(『クラップフェンの森で』作:ヨハン・シュトラウス2世)
③たいこのおんがく(『ジャンボ・ブワナ』作:ゼム・マッシュルームズ)
④ふりかえり

①では、手拍子や小物打楽器を使って場を温め、②『クラップフェンの森で』では軽快なポルカに合わせて、鳥の鳴き声やジェスチャーで参加します。続く③では、ジャンベを使ったケニアの音楽『ジャンボ・ブワナ』を歌で楽しみ、④ふりかえりでは、ウィンドチャイムを参加者に渡して、みなで思い思いの音色を奏で、盛り上がった気持ちを少し落ち着けるような時間を設けました。

ワークショップを終えて会場からは「冒頭に、実施プログラムの順番をアナウンスしてもらえたのがよかった」「プログラム自体も、さまざまな要素が詰め込まれていて、子どもたちも非常に楽しめそう」という声が上がりました。

とくにASD傾向のある子どもたちにとって、見通しが持てることは、大きな安心につながります。また、今回のプログラムは“おとみっくのベストセレクション”ともいえる内容で、知的障害のある子も楽しめるよう、手拍子・声・ジェスチャーなどの感覚的な要素を組み合わせ、動く時間と落ち着く時間とでメリハリをつけて構成されています。また、視覚的合図としてフリップを使うなど、参加しやすさへの工夫も随所に散りばめられています。

さらに、肢体不自由で車いすやバギーに乗っている子どもたちは、動きや可動域に制約があります。ヘッドレストに頭部を支えられていることも多く、上を向いている子も楽しめるように、積極的に演者が近づいたり、参加者の頭上に大判の布を通したりと、日頃から実践している工夫を共有しました。

当たり前のことを、積み重ねる 瑞宝太鼓の事例から

ワークショップ後はゲストによる事例紹介に移ります。まずは瑞宝太鼓所長・岩永洋平さんによる発表から。圧巻の和太鼓演奏を披露する「瑞宝太鼓」。知的障害や発達障害がある12名のメンバーが太鼓奏者として働き、岩永さんは彼らのマネジメントを担当しています。

岩永さん(画面中央)。今回は巡業中の合間をぬって、オンラインでの登壇でした

瑞宝太鼓の活動開始は1987年、職業訓練校のサークルとしてスタートしました。2001年からプロとして公演活動と講師業を始め、現在は就労継続支援A型という福祉事業所の業務の一環で運営されています。

楽譜を読める人、動きや耳で覚える人など、得意なことも人それぞれ。「どこどん」「でけでん」のような口唱歌(くちしょうが)なども活用しながらリズムを覚え、楽曲を洗練させていくと岩永さん。「特別な練習法はなく、当たり前のことを当たり前にやるのが秘訣です」と日々の稽古スケジュールを紹介しました。

音楽からポジティブな原体験を ツナガリMusicLab.の事例から

続いて登壇したのは、株式会社人と音色 代表取締役・武藤紗貴子さん。発達特性のある子ども向けの個人音楽レッスン「ツナガリMusicLab.」を運営するほか、インクルーシブ音楽祭「ひときわ音楽祭」の企画も行っています。

武藤さん(画面右)

ツナガリMusicLab.では「応用行動分析学」の観点から、一人ひとりに応じたレッスンプログラムを設計。得意・不得意がはっきりしている子どもたちが、音楽を通じてポジティブな原体験を獲得できるようレッスンを行っています。例えば、ADHDの衝動的な傾向が強く、失敗すると泣いて他者を叩くような行動が出てしまう生徒のケースでは、行動の前後を注視して、代わりとなる行動へ促していくことで、レッスンの時間を成功体験へと近づけていき、彼らの自己肯定感を育みます。

また、ひときわ音楽祭では、ツナガリMusicLab.の生徒たちによるバンドを結成。その際の選曲には個々のよさや強みが引き立つ選曲・パート分けを意識しつつ、人と演奏することの心地よさを感じてもらいながらも、観客も楽しめるステージをつくる、その両立を目指していると話しました。

見えてくる共通点と違い

前半は、ワークショップ・公演・個別レッスンと、障害のある人々とともに音楽に取り組んでいる三者それぞれの活動から、そのメソッドを垣間見ることができました。後半のラウンドテーブルでは、九州大学准教授・長津結一郎さんによるファシリテーションのもと、質疑応答や感想を共有する時間が設けられました。

ラウンドテーブルのファシリテーターを務める長津さん

長津さんからの「その人らしさに注目するのか、それとも上達を目指すのか」という問いに対し、

岩永さん:(障害のあるなしに関わらず)演奏でお金をもらう以上は、上達は重要な条件。メンバー全員がプロとして、ベテランはベテランなりに、若手は若手なりのやり方で、同じ方向を向いています。

武藤さん:自分のことが「素敵」「かっこいい」と感じられる水準にまで、ぜひ到達してほしいのですが、そこに子どもたちの気持ちが伴っていない状態は危険です。まずは音を出す楽しさを知ってから、能動的にやりたいと思える状態をつくるまでがすごく大切なんです。

坂本さん(おとみっく):「難しいかも?」よりも「出来るかも!」と希望をもって接するほうが、子どもたちは応えてくれますよね。

と、個々の得意や興味を基盤にしたコミュニケーションの大切さについて確認しました。会場からは「それぞれの取り組みには、共通点があるような気がした。発達障害や知的障害の特性傾向を把握したうえで、一緒に方法を模索していくことが、参加者の『もっとやりたい』の階段を積み重ねることにつながっていくのではないか」との声がありました。

共通項が見出せそうな一方で、おとみっくのワークショップは全国の学校を巡るため、同じ子どもたちに何度も会う機会は少ないそう。その点、瑞宝太鼓やツナガリMusicLab.は、メンバーや受講生と頻繁に顔を合わせます。そのため、日々向き合うからこそ、見えているものや感じているものに違いがあるのではないでしょうか。

日々の練習や公演をともにしていくなかでメンバーを「障害のある人」ではなく「同じ職場の○○さん」として捉えていると岩永さん。武藤さんも「障害種や診断はひとつの手がかりになりますが、本当に大切なのは『この子はどういう子なのか』という視点です」「大変なこともありますが、この子の『楽しい』・『嬉しい』はどこにあるのかを、つねに探していきたいです」と語りました。

インクルーシブな音楽体験のかたちは、ひとつではありません。目の前の人を知り、ともに方法を探りながら積み重ねていく。その実践こそが、誰もが安心して楽しめる場をつくるために、大切な要素のひとつだと気付かされる時間になりました。

次で第3回を迎える「OTOMIC Lab.vol.2」。これからも会場の皆さんと一緒に、インクルーシブな音楽のかたちについて、考えていきます。

第4回は1月30日、参加申込も受付中です

第4回は2026年1月30日、「アクセシビリティの多様な視点」というテーマで、ゲストの廣川麻子さん(NPO法人シアターアクセシビリティネットワーク 代表理事)・岸本匡史さん(穂の国とよはし芸術劇場 芸術文化プロデューサー)と一緒に、舞台芸術をつくるうえで必要なアクセシビリティと環境づくりについて考えます。

参加者募集中ですので、お申し込みを希望される方は、以下の情報をチェックしてみてはいかがでしょうか。

詳細・申込はこちら

HP:https://irohamo.org/otomic-labo2/
Peatix:https://otomic-artist.peatix.com 

■ラウンドテーブル&ワークショップ全回会場
調布市グリーンホール小ホール

■参加料
2,000円(2-4回目各回)

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